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浦和地方裁判所 昭和48年(ワ)194号 判決 1978年10月31日

原告

矢吹美代子

ほか一名

被告

本多製本株式会社

ほか一名

主文

一  被告らは各自、

1  原告矢吹に対し金二一七万九九六五円と、

内金一三万六六六六円に対する昭和四七年七月二五日以降、

内金五三万二二三〇円に対する右同年八月一日以降、

内金一三万六六六六円に対する右同年八月二五日以降、

内金五〇万八八一〇円に対する右同年九月一日以降、

内金一三万六六六六円に対する右同年九月二五日以降、

内金四四万一五八〇円に対する右同年一〇月一日以降、

内金一三万六六六六円に対する右同年一〇月二五日以降、

内金一五万〇六八一円に対する右同年一一月一日以降、

完済まで年五分の割合による金員

2  原告医療法人に対し金二二万五六七〇円とこれに対する昭和四七年六月二七日以降完済まで年五分の割合による金員、

の各支払をせよ。

二  原告らのその余の請求は棄却する。

三  訴訟費用は、これを一〇分してその三を被告らの連帯負担、その余を原告らの連帯負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の申立

一  原告

1  被告らは各自

原告矢吹に対し金六六八万五八二一円及び別紙遅延損害起算日一覧(一)記載の金額に対する起算日以降完済まで年五分の割合による金員、

原告医療法人に対し金八六万〇二二一円及び別紙遅延損害起算日一覧(二)記載の金額に対する起算日以降完済まで年五分の割合による金員、

の各支払をせよ。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  1につき仮執行宣言

二  被告ら

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  原告らの請求原因

1  原告矢吹は、昭和四七年六月二七日午前八時五〇分ころ、戸田市大字下笹目六五一〇番地三先道路を、普通乗用自動車を運転して、新大宮バイパス方面から川口市方面へ向けて進行中、対向して進行して来た被告古河運転の普通貨物自動車(以下「被告車」という。)に衝突された結果、頭部打撲創、急性脳腫張(脳圧亢進)、前頭部線状骨折及び皮下血腫、頸椎捻挫、外傷性頸部症候群、腰椎捻挫、左動眼神経麻痺、頸性頭痛症候群の傷害を負い次のとおり合計六六八万五八二一円の損害を被つた。

治療費 二四五万一六六〇円

原告は負傷の治療のため、南浦和病院に、昭和四七年六月二七日から同年一一月七日まで一三四日間入院の後、翌八日から昭和四八年六月三〇日までの間に、九五日通院し、入院治療費として二四三万八九六〇円、通院治療費として五一万二七〇〇円、合計二九五万一六六〇円を要したが、そのうち五〇万円については、本件損害の填補として給付を受けた強制保険金五〇万円をもつて充当したから、残額は二四五万一六六〇円である。

休業損害 二一六万九九九二円

原告矢吹は原告法人の理事で経理担当者として勤務しているが、本件事故で負傷したため、昭和四八年六月三〇日まで欠勤を余儀なくされ、その間に得られた筈の月平均一三万六六六六円の割合による六か月の給与八一万九九九六円、昭和四七年冬季賞与二五万円、昭和四八年夏季賞与二八万円、合計一三四万九九九六円相当の利益を失つた。

入院雑費 四万〇二〇〇円

入院一三四日間、一日当り三〇〇円の雑費を要し、その合計額は四万〇二〇〇円である。

通院交通費八万一七〇〇円

通院一回に要した交通費は八六〇円で通院日数九五日の合計額は八万一七〇〇円である。

慰藉料 一二〇万円

原告矢吹は、原告法人の理事であり、かつ経理担当として会計一切を処理して来た健康で有能な女性であるが、本件事故による受傷で苦痛を受け、また一年以上も欠勤し、担当事務の処理ができなくなつて種々支障を来したことと、一家の主婦として夫や家族に迷惑をかけたことで苦悩し、筆舌に尽せない精神的痛手を被つた。その上、本件事故が被告古河の一方的な過失によつて生じたものであるのに、被告らは全く誠意を示さないことをもしんしやくすると、原告矢吹に対する慰藉料は一二〇万円が相当である。

2  原告法人は、原告矢吹が運転していた自動車(以下原告車という。)の所有者で本件事故により次の損害を被つた。すなわち、原告車は、原告法人が昭和四七年五月一八日株式会社関東マツダから代金五七万五〇〇〇円で買受け、一一万円でカークーラーを取付けたうえ、車両登録料一万九五〇〇円、税金二万三一八〇円、強制保険料二万〇五五〇円を支払つて、同月二九日に引渡しを受け所有権を取得したばかりのマツダグランドフアミリヤバンST31C型デラツクスで本件事故まで僅かに一か月を経過し、走行距離も一二〇〇キロメートルに達したに過ぎないうえ、クーラーは全く使用してないのに、本件事故で大破し、使用不能となつた。仮に修理すれば使用可能だとしても、新車同様の原告車を完全に原状に回復するには、同一型式の新車を購入するほかなく、これに要する費用は全額、本件事故と相当因果関係に立つ損害に当る。したがつて、原告車の本件事故時の評価額五六万三三三四円のほか、前記クーラー代及び登録料等諸費用額をも加えた合計七三万六五六四円は、当然右損害の範囲内のものである。

3  本件事故は、被告車を運転していた被告古河の過失によるものである。すなわち、被告古河は被告車を運転して毎時四〇キロメートルの速度で進行していたが、本件事故現場附近は進行方向左方に曲る見通しのきかない道路であるから、あらかじめ減速徐行し、安全を確認しながら進行すべき業務上の注意義務があるのに、これを怠り漫然進行したため、原告車と衝突し、原告らに損害を被らせた。

4  被告会社は、被告車を運行の用に供している者であり、かつ、被告古河の使用者であるところ、被告古河は本件事故当時被告会社の業務を執行していた。

5  本件事故発生直後の同日午前九時ころ、被告会社社員金浦定雄は被告会社を代理して、原告法人理事矢吹陸朗との間で、被告会社が原告車を引取り、原告車の時価相当額その他の損害金を支払うことを合意したのみならず、被告会社代表者本多修一郎は同年七月二一日右原告法人理事から右同旨の申入れを受けて承諾した。

6  以上のとおりであるから、被告古河は不法行為者として、各原告の損害を賠償すべき責任があり、被告会社は、原告矢吹に対しては被告車の運行供用者又は被告古河の使用者として、原告法人に対しては、損害賠償契約に基づき、そうでないとしても被告古河の使用者としてそれぞれ損害賠償責任があるのに、任意に賠償金の支払をしないので、原告らは本訴の提起を新井修市弁護士に委任し、手数料として原告法人が五万円、原告矢吹が一五万円を昭和四八年三月三〇日支払つたほか、原告ら勝訴の場合の成功報酬として損害賠償額の一割相当を支払う旨約した。原告法人の右弁護費用一二万三六五七円、原告矢吹の弁護費用七四万二二六九円も本件事故による損害というべきである。

7  よつて被告らに対し、原告矢吹は損害合計六八八万五八二一円及び別紙遅延損害起算日一覧(一)記載金額に対する同記載の日以降完済まで年五分の割合による遅延損害、原告法人は損害合計八六万〇二二一円及び別紙遅延損害起算日一覧(二)記載の金額に対する同記載の日以降完済まで年五分の割合による遅延損害金の各連帯支払を求める。

二  被告らの答弁

1  請求原因1中、原告主張の日時、場所において被告古河運転の被告車が対向する原告矢吹運転の原告車に衝突し、原告矢吹が負傷したことは認めるが、受傷の部位、程度は知らないし、損害額については争う。

原告矢吹が治療を受けた病院は、同原告の夫の経営する病院であり、治療に当つた主治医は、同原告の実兄であつて、同原告に対し濃厚治療、過剰治療の限りを尽したばかりでなく、治療費も社会的水準をはるかに越えた金額で高額に過ぎる。

2  請求原因2中、原告矢吹の運転していた原告車が、原告法人の所有であつて、本件事故により破損したことは認めるが、大破して使用不能となつたとの事実は否認する。右破損の損害額は、修繕費相当の二〇万六八七〇円であり、原告法人主張の損害額については争う。その余の主張事実については知らない。

3  請求原因3の、本件事故が被告古河の過失によるとの主張は認める。

4  請求原因4は認める。

5  請求原因5は否認する。

6  請求原因6中、原告らがその主張の訴訟委任をしたことを認めるが、委任報酬に関する主張事実については知らない。

三  被告らの抗弁

原告矢吹は、本件事故による損害賠償金として自賠責保険金五〇万円の給付を受けまた被告会社から二五万六〇七五円を受領した。

四  抗弁に対する原告らの答弁

原告矢吹が保険金五〇万円の支払を受けたことは、先に原告らも自陳した。

第三証拠関係〔略〕

理由

一  次の事実は当事者間に争いがない。

原告矢吹が、昭和四七年六月二七日午前八時五〇分ころ、原告車を運転して原告ら主張の場所を進行中、対向して来た被告古河運転の被告車に衝突されて負傷したこと。

原告矢吹の運転していた原告車が原告法人の所有であり、本件事故により損傷したこと。

被告会社は被告車の運行供用者であること。

本件事故は被告古河の過失によつて惹起されたこと。

被告古河は被告会社の被用者であつて、被告会社の業務執行中に本件事故を起したこと。

右争いのない事実によれば、被告会社は被告車の運行供用者として原告矢吹の受傷損害を賠償すべき責任及び被告古河の使用者として原告法人の自動車損害を賠償すべき責任があり、被告古河は不法行為者として各原告の損害を賠償すべき責任がある。

二  成立に争いのない甲第五ないし七、一〇、一一号証、同乙第六号証、証人稗田満の証言、原告矢吹本人の供述によると、原告矢吹は受傷当日から昭和四七年一一月七日まで南浦和病院に入院し、稗田医師を主治医として診療を受けたこと、同医師は原告矢吹について頭部打撲傷、急性脳腫張(脳圧亢進)、前頭部線状骨折及び皮下血腫、頸椎捻挫、外傷性頸部症候群、腰椎捻挫、左動眼神経麻痺、頸性頭痛症候群の診断の下に、注射、投薬等を施し、入院期間一三四日の治療費二四三万八九六〇円について同年一二月三〇日付診療報酬明細書、同年一一月八日から一二月三一日までの間における実日数二〇日の通院治療一六万九〇二〇円について同年一二月三一日付前同明細書、昭和四八年一月一日から同年六月三〇日までの間における実日数七六日の通院治療費について昭和四八年八月三日付同明細書をそれぞれ発行したことが認められる。

しかしながら、前掲甲号各証及び乙号証、弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる乙第八号証の一ないし三、証人丹羽信善の証言により真正に成立したと認められる乙第一〇号証及び右同証言に徴すれば、次の事実が認められる。

1  脳圧亢進は、腰椎穿刺による脳圧測定をしなければ確定的な診断を下すことができないところ、原告矢吹の診療録(カルテ)にはその測定をした形跡はなく、したがつて稗田医師は、単に原告矢吹の頭痛及び吐き気の訴えのみに基づいて脳圧亢進の診断をしたと推察される。しかし、原告矢吹の頭痛、吐き気は、頭部打撲傷(脳震盪)あるいは頭骨損傷に起因するとも考えられなくはなく、また昭和四七年七月二日の脳波検査の結果は正常であることに徴すると、脳圧亢進と確定的に診断することには疑問があるばかりでなく、かえつて脳圧亢進はなかつたとの推定さえ可能である。

2  原告は、入院当初、腰痛を訴えておらず(したがつて入院時には腰椎捻挫は診断されていない。この認定に反する原告矢吹本人の供述は措信できない。)、入院後六日目の昭和四七年七月二日、奈良県立医科大学病院長堀浩教授の特別診察を受けた際、始めて腰部の圧痛を訴えたものであるが、それは先天性の「腰椎化」に原因するものであつて、外傷性のものと認めるには疑問があり、その後、同月一二日に寝返りの際、激しい腰痛を覚え、それ以来腰痛が持続したけれども、前示したところから外傷性のものとは断ずることはできず、ひいて、稗田医師のした腰椎捻挫の診断に疑問がある。

3  稗田医師の動眼神経麻痺の診断に至つては、カルテ上その根拠を見出すことが全くできず、誤診の疑いが濃厚である(もつとも、自衛隊中央病院脳外科部長堀の内宏太医師が昭和四七年七月六日原告矢吹を特別診察し、外転神経麻痺の診断をしたが、それは動眼神経麻痺とは異なる。)。

4  稗田医師は、昭和四七年六月三〇日原告矢吹について第六頸椎椎体骨折の診断をしているが、同年七月二日の前出堀教授による特別診察結果では第六頸椎は正常である。

5  原告矢吹にかかる前示昭和四七年一二月三〇日付診療報酬明細書及び同月三一日付同明細書の各内訳中、注射に関する記載と看護日誌(証人稗田満の証言及び弁論の全趣旨によれば、乙第六号証の二七枚目以降は看護日誌と認められる。)、処置・注射等記録の各注射に関する記載とは、かなり相違する。

6  昭和四七年一二月三〇日付診療報酬明細書内訳には、延一三回のレントゲン撮影、一三種類の諸検査が行われたことになつているけれども、カルテ、看護日誌、処置・注射等記録には、それ程多数のレントゲン撮影、諸検査を実施したことを示す記載は見当らない。

7  稗田医師の昭和四八年一月二九日付診断書には、原告矢吹が三五日間絶対安静のため附添看護を要した旨記載されているが、前出堀教授の昭和四七年七月二日特別診察の結果では、同年七月四日まで絶対安静、引続き七月一一日まで安静、その後はかなり自由にしてよろしいとの所見であり、右診察後、特に症状に著るしい異変の生じた旨のカルテ上の記載は見当らない。

以上のとおり、前示稗田医師の診断についての疑問、原告矢吹にかかるカルテの記載と看護日誌、処置・注射等記録の各記載との齟齬、診療報酬明細書と看護日誌、処置・注射等記録の各記載の相違がそれぞれ存するが、更に、

1  成立に争いのない乙第一号証の一ないし六、証人和地耕二の証言、原告矢吹本人供述の一部によれば、被告古河は被告車を運転して本件事故現場に差しかかつたが、同所が左に急カーブをなしているのを知らないで減速せずに進行したため、カーブ直前でそれに気づき、かつ対向して原告車が進行して来るのを発見して急にハンドルを左に切つたところ、被告車は右に横転しつつ道路中央線を越えて対向車線に進入し、右側ガードレールに一旦衝突した後、折から危険を感じて停車寸前のもつともゆるやかな速度で進行していた原告車の最前部に衝突したものであつて、事故後、原告矢吹は車外に降り立つて、被告車の関係人和地耕二と対話を交したこと(右に反する原告矢吹の供述は採用しない。)、

2  証人和地耕二の証言、被告会社代表者の供述によると、被告車の関係人和地耕二と被告会社代表者本多修一郎が本件事故から約一週間を経たころ、入院中の原告矢吹を見舞うため、その病室を訪れたところ、原告矢吹は床上に起坐し、多数の書類の置かれた小机を膝の上にのせていて、一見執務している様子であつたこと(右に反する原告矢吹本人の供述は採用できない。)、

3  成立に争いのない乙第一六号証、原告矢吹本人及び原告法人代表者の各供述によれば、原告矢吹の入院した南浦和病院は、原告法人の経営にかかり、原告矢吹は原告法人の理事長兼病院長矢吹陸朗の妻で、原告矢吹自身、原告法人の理事であり、かつ右病院の経理事務を担当しているばかりでなく、原告矢吹の主治医稗田医師は同原告の実弟であること、

4  成立に争いのない乙第一一号証によれば、稗田医師は自ら病院を経営していた昭和四三年三月、いわゆる治療費の水増し請求をしたかどで、詐欺の罪名をもつて起訴され、健康保険医の資格を失つたことがあること、

5  成立に争いのない乙第一四号証によれば、南浦和病院は、交通事故による受傷の治療のために、昭和四五年八月一九日から昭和四六年八月一七日まで入院した矢吹孝徳に対し、頸椎変形損傷、腰椎変形の診断を下したが、右診断は、静岡地方裁判所浜松支部昭和四七年(ワ)第二六二号損害賠償請求事件の判決で根據がないとして排斥されたことがある(右診断も稗田医師がしたと判決理由から窺われる。)こと、

6  証人増田純朗の証言と同証言により真正に成立したと認められる乙第二〇号証によれば、株式会社損保リサーチ新宿支社員増田純朗は、大東京火災海上保険株式会社の依頼により、南浦和病院の原告矢吹に対する治療の経過、内容等を調査したが、その過程で、原告矢吹の入院中、右病院に看護婦として勤務していたことのある者約五人に面接し、同人らから、原告矢吹については注射をしないのに看護日誌等にそれを実施した旨を示す署名をしたことのある旨、原告矢吹に対しては昭和四七年九月ころ以降は殆んど筋肉注射、静脈注射をしてない旨、の供述を得たことがあること、

をそれぞれ認めることができる。

以上認定したところによれば、稗田医師の原告矢吹に対する診断中、脳圧亢進、腰椎捻挫については証人稗田満の証言及び原告法人代表者の供述を徴しても、なお疑問が残り、これを採用することはできないといわざるを得ない(動眼神経麻痺は外転神経麻痺の誤診と認める。)し、また同医師の作成した各診療報酬明細書の記載もそのまま信用する訳にはいかない。ところが、前掲甲第六、七及び一二号証によつて認められる各診療報酬明細書の内訳中、本件事故と相当因果関係に立つ症状についての治療として、適正と認めるべき範囲のものを、個別的具体的に確定するに十分な証拠がないから、前認定の諸事実のほか、前掲乙第一〇号証によつて認められる医師丹羽信善の意見、すなわち、カルテによれば、原告矢吹に対する治療は昭和四七年八月一〇日ころ以降、医師の手をわずらわすことなく看護婦の手で続けられていたと考えてよく、症状固定の時期は同年八月一五日から一〇月二四日までの間と考えるとの意見をもしんしやくした上、原告矢吹の損害を次のとおり合計二七四万六〇四〇円と認める。

治療費 一四六万三三七六円

前掲甲第六号証によつて認められる原告矢吹入院期間中の診療報酬明細書記載合計金額二四三万八九六〇円の六〇パーセントにあたる金額

入院雑費 三万六〇〇〇円

入院一三四日中、昭和四七年一〇月二四日までの一二〇日をもつて本件事故と相当因果関係ある入院期間と認め、その間の一日当り三〇〇円の割合による金額

休業損害 五四万六六六四円

原告矢吹が、原告法人の理事かつ経理事務を担当している者であつて、本件事故に遭つて入院し休業したことは前認定から明らかである。そのうち相当因果関係に立つ入院期間を前示のとおり一二〇日と認める。そうして、原告法人代表者の供述により真正に成立したと認められる甲第八号証、右同供述及び原告矢吹本人の供述によれば、原告矢吹は月平均一三万六六六円の給与を受けていたと認められる(乙第二号証の一ないし四は右認定を左右するには足りない。)から休業損害額は五四万六六六四円となる。

なお、前示の昭和四七年一〇月二四日より後の入通院治療及び休業は本件事故との相当困果関係を認めるべき証拠がないことに帰するから、その部分の損害の主張については採用しない。

慰藉料 七〇万円

ところで、原告矢吹が、その損害の填補として、自賠責保険金五〇万円を受領したことは当事者間に争いはなく、また被告会社から合計二五万六〇七五円の支払を受けたことについては、原告矢吹において明らかに争わないものと認められるから自白したものとみなす。そこで原告矢吹の前示損害額二七四万六〇四〇円から右填補額合計七五万六〇七五円を控除すると残額は一九八万九九六五円となる。

三  原告法人は、被告会社との間で、被告会社が原告車を引取り、原告車の時価相当額を原告法人に支払う旨の合意が成立したと主張する。そこで証拠を検討すると、原告法人代表者の供述中に、原告法人代表者矢吹陸朗は、本件事故後、被告会社に対し、原告車が購入後間もないものであることを理由に、原告車を被告会社において引取り、新車でもつて賠償するよう申入れたが、責任ある回答はなく、できるだけ申入の意向に添いたいとの返事だつた旨の部分がある。しかしながら右供述をもつては、原告法人の主張を認めるに足りないことは明白であり、かえつて、証人和地耕二、同森剛の各証言、被告会社代表者の供述によれば、原告法人主張の合意はなかつたことを認めることができる。

そこで、原告車破損の損害額について判断する。原本の存在とその成立について争いのない乙第一五号証、原告法人代表者及び被告会社代表者の各供述によれば、本件事故によつて破損した原告車は、即日株式会社関東マツダに修理を依頼され、昭和四七年七月二〇日ころ修理が完了したが、修理代金は二〇万五六七〇円であつたことを認めることができる。したがつて、原告車破損の損害額は、右修理代金相当の二〇万五六七〇円というべきである。原告法人は、破損された原告車が新車同様であつたから、その損害は新車購入代相当額である旨主張するけれども、右認定のとおり修理され、事故前と同様に使用可能となつている以上、原状に回復されたというべきであるから、原告法人の主張は採用できない。

四  原告らが本訴提起につき弁護士に委任したことは、当事者間に争いのないところであるが、本件事故と相当因果関係に立つ弁護士費用の額は、原告矢吹については前示認容の損害額一九八万九九六五円の約一〇パーセント相当の一九万円、原告法人については同損害額二〇万五六七〇円の約一〇パーセントに当る二万円と認める。

五  以上の次第で、被告らは連帯して原告矢吹に対し二一七万九九六五円と内昭和四七年七月分ないし一〇月分給料相当の一か月当り一三万六六六六円に対する右給料支給日である当該月の各二五日(右支給日については弁論全趣旨によつて認める。)以降、残余の一六三万三三〇一円に対する本件事故発生日の昭和四七年六月二七日以降、各完済まで年五分の割合による遅延損害金を、また原告法人に対し二二万五六七〇円とこれに対する事故発生日の昭和四七年六月二七日以降完済まで年五分の割合による遅延損害金をそれぞれ支払う義務があるから、原告らの各主たる請求は右限度で、右認容額に対する附帯請求については、各請求どおり認容し、その余は棄却することとして、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条、仮執行宣言につき同法一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 真栄田哲)

遅延損害起算日一覧(一)

損害金六六八万五八二一円のうち

1 昭和四七年七月分給料一三万六六六六円に対する同月二五日以降

2 同年七月分治療費五三万二二三〇円に対する同年八月一日以降

3 同年八月分給料一三万六六六六円に対する同月二五日以降

4 同年八月分治療費五〇万八八一〇円に対する同年九月一日以降

5 同年九月分給料一三万六六六六円に対する同月二五日以降

6 同年九月分治療費四四万一五八〇円に対する同年一〇月一日以降

7 同年一〇月分給料一三万六六六六円に対する同月二五日以降

8 同年一〇月分治療費三七万三二七〇円に対する同年一一月一日以降

9 入院雑費四万〇二〇〇円に対する同年一一月八日以降

10 同年一一月分給料一三万六六六六円に対する同月二五日以降

11 同年一一月分治療費二〇万一〇九〇円に対する同年一二月一日以降

12 同年一二月分給料一三万六六六六円及び同年冬期賞与二五万円計三八万六六六六円に対する同月二五日以降

13 同年一二月分治療費四万九〇〇〇円、同年一二月末までの通院交通費一万七二〇〇円、慰藉料中九五万円、合計一〇一万六二〇〇円に対する昭和四八年一月一日以降

14 昭和四八年一月分給料一三万六六六六円に対する同月二五日以降

15 同年二月分給料一三万六六六六円に対する同月二五日以降

16 同年三月分給料一三万六六六六円に対する同月二五日以降

17 弁護士費用中既払い手数料一五万円に対する同年三月三〇日以降

18 同年四月分給料一三万六六六六円に対する同月二五日以降

19 同年五月分給料一三万六六六六円に対する同月二五日以降

20 同年六月分給料一三万六六六六円に対する同月二五日以降

21 同年一月一日ないし同年六月三〇日の治療費三四万五六八〇円、右同期間の通院交通費六万四五〇〇円、慰藉料中二五万円、合計六六万〇一八〇円に対する同年七月一日以降

22 昭和四八年夏季賞与二八万円に対する同年八月一日以降

23 弁護士費用中成功報酬五九万二二六九円に対するこの判決確定の日以降

遅延損害起算日一覧(二)

損害金八六万〇二二一円のうち

1 自動車損害七三万六五六四円に対する損害発生日である昭和四七年六月二七日以降

2 弁護士費用中既払い手数料五万円に対する支払日である昭和四八年三月三〇日以降

3 弁護士費用中成功報酬七万三六五七円に対するこの判決確定の日以降

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